環境目標の“科学的な整合性”を裏付ける、SBT認定の手順とポイント

山口岳志 日立コンサルティング エネルギーコンサルティング本部 マネージャー,スマートジャパン

2019年01月11日

「パリ協定」以降の企業の気候変動対策について解説する本連載。第3回は代表的な気候変動イニシアチブである「SBT(Science Based Target)」の認証取得に向けたポイントについて解説する。

本稿では、2015年に成立した「パリ協定」以降における企業の気候変動対策の動きについて概説し、各種イニシアチブの紹介や、それらが設立に至った背景、そして実際の企業の動きについて実例を交えて紹介していきたい。その上で、日本企業が具体的にどのようなアクションを取り得るべきか、どのような対外発信を行い得るのかを考えていきたい。

前回は気候変動対策の主役が国から企業に重心が移ってきた背景として、パリ協定前後の歴史的な動きを解説し、パリ協定が定めた2℃目標を達成するための企業の自発的な取り組み(イニシアチブ)であるSBT(Science Based Target)の概要を説明した。今回は引き続きSBTについて、特に認定取得に向けた手順やポイントについて解説する。
 

本連載で解説予定の制度/イニシアチブ
 

SBTの取得にはまず「Scope」の把握から

SBTやCDP回答などの気候変動イニシアチブ対応を行う上で最初のステップとなるのが、自社のGHG(温室効果ガス)排出量を測定することである。これらのイニシアチブでは排出量の算定と報告の基準として「GHGプロトコル」※1を用いている。このGHGプロトコルでは、GHG排出量をScope1、2、3と3項目に分類している。

※1 米国のシンクタンクである世界資源研究所(World Resources Institute:WRI)と世界環境経済人会議(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD)によって1998年に設立。

Scope1は、例えば自社の工場に設置したボイラーで灯油や都市ガスを燃焼するなど、自社の活動によって直接排出したGHGが含まれる[セメントやソーダ石灰ガラスなどの製造事業者は工業プロセスによる直接排出(非エネルギー起源CO2)も算入する]。Scope1については、燃料転換や製造工程の見直しなどによって排出量の削減が可能になるだろう。

Scope2は、主に購入した電力(および熱・蒸気)の使用による排出を対象とする。オフィスでは、照明や空調、コピー機などで電力を消費しているが、当然のことながらこれらの機器がGHGを排出しているわけではない。GHGは、発電所(主に火力発電所)で排出されている。つまり、自社の事業のために購入するエネルギーによって間接的に排出されるGHGを対象としているため、Scope2は「間接排出」とも呼ばれる。

Scope2は、省エネを行ったり再エネ電力を販売したりする小売事業者から電力を購入することにより、排出量を削減できるだろう。大企業の多くでは、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)によって、Scope1および2についての算定・報告は既に行われていることが多いが、その場合これらのデータをCDP報告などでも活用することが可能である。
 

特に重要な「Scope3」

一方、Scope3は、自社の直接/間接の排出を除いた事業活動におけるバリューチェーン全体の排出を対象とする。例えば、サプライヤーの原材料調達や輸送、サブコントラクターの部品製造、完成した製品の輸送、消費者の製品使用、廃棄、従業員の出勤や出張など、自社が直接排出に関わらない排出量を対象とする。
 

バリューチェーン全体のGHGプロトコルスコープ、および排出(Scope1、2、3) 出典:Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard(2011.9)

GHGプロトコルでは、下表のように、Scope3の対象を15のカテゴリーに分割している。バリューチェーン全体におけるCO2削減の選択肢を大きく広げる意味でも、Scope3を把握することは重要である。
 

Scope3の各種カテゴリー。環境省Webサイト「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」を基に日立コンサルティング作成


SBT目標を設定するためステップ

再びSBTの話に戻る。自社のScope1から3までの排出量を把握できたなら、定められた手順に従って削減目標を設定していく。目標設定の手順については、世界自然保護基金(WWF)などの自然保護団体や環境系のコンサルティング会社が開発したものなど複数のものがある。特に思い入れがなければSBTイニシアチブ自身が開発した「セクター別脱炭素化アプローチ(SDA)」※2に従ったツールか、環境省のグリーンバリューチェーンプラットフォーム※3に掲載されている総量削減算定ツールを用いるとよいだろう。後者については、基準年の排出量(Scope1、2)につき、SBTが定める最低水準である2050年までに2010年比49%削減のシナリオに沿った算出を行うことが可能である。基準年と目標年、そして基準年におけるScope1、2の数値を入力すれば、削減水準が表示される。

※2 https://sciencebasedtargets.org/sda-tool/

※3 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/intr_trends.html#num05

SBTに認定されるには、全排出量のうち、Scope3が占める割合が大きい場合(Scope1+2+3の40%以上)、Scope3の目標も報告しなければならない。特に製造業においては、一般的にScope3の割合が大きくなるので、Scope3算定は必須になると思ってよいだろう。

SBT認定に当たっては、まずはコミットメントレターをSBTイニシアチブ事務局に提出する。これにより事務局を務めるWWFやCDP、世界資源研究所(WRI)、そして国連グローバル・コンパクト(UNGC)が、コミットメントがなされたという事実を対外的に発表する。コミットメントレターを提出してから24カ月以内に、Scope1から3の現状と、目標を記載したフォームを提出する。

この際、Scope1、2の目標については上記のツールを用いて算定すればよいが、Scope3については「野心的」な目標設定を設定することが求められるのが特徴だ。何をもって「野心的」とするかは当該の企業が所属している業界や、今までのScope3排出状況によって判断基準が各社ごとに異なる。従って、Scope3の目標設定に当たっては、SBTイニシアチブ事務局とのコミュニケーションが必要になる。前述のとおり、Scope3の算定に当たってはバリューチェーン全体の排出量を把握するため、扱うデータが多岐にわたり、量も膨大となる。SBT事務局との連携も含め、外部のコンサルタントを活用するなど効率的に作業を進めるべきだろう。

無事SBTの認定を得られた後は、バリューチェーン全体のGHG排出状況を毎年開示し、削減に向けての進捗(しんちょく)を報告していくことになる。

SBTにおいて要請される行動プロセス 出典:WWF 「Science-based Target Setting Workshop」資料(2015.11)(https://www.wwf.or.jp/corp/upfiles/20151109WWF_smnr02.pdf

次回は今回紹介したSBTと同様に、代表的な国際イニシアチブである「RE100」について解説する。