世界で広がるESG投資、
企業も気候変動対策を無視できない時代へ

山口岳志 日立コンサルティング エネルギーコンサルティング本部 マネージャー,スマートジャパン

2018年12月07日

気候変動対策への取り組みが、企業価値にも影響を与える時代になりつつある現在。本連載では「パリ協定」以降における企業の気候変動対策の動きについて概説し、各種イニシアチブの紹介や、それらが設立に至った背景、そして実際の企業の動きについて実例を交えて紹介する。
 

気候変動の何が恐ろしいのか

2018年の夏は全国的に酷暑となり、熊谷市では観測史上最高となる41.1℃を記録した。気象庁のデータによれば、東京の気温は100年前と比較して約3℃上昇したという※1ヒートアイランド現象による効果が大きいと思われるが、やはり地球温暖化ガスを原因とするグローバルな気候変動の影響は無視できないだろう。

※1 気象庁「ヒートアイランド監視報告2017」

グラフ左=日本の年平均気温偏差 出典:気象庁「日本の年平均気温の偏差の経年変化(1898~2017年)」(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html)/グラフ右=世界の年平均気温の偏差 出典:気象庁「世界の年平均気温の偏差の経年変化(1891〜2017年)」(http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html


IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書では、「二酸化炭素の累積総排出量とそれに対する世界平均地上気温の応答は、ほぼ比例関係にある。気候システムの温暖化には疑う余地はない」と述べられている※2。ちなみに、気象庁によれば、この100年で日本では2℃、世界全体でも約1℃、平均気温が上昇している。先のIPCC報告書では「産業革命前からの気温上昇が2℃を超えるとリスクが全体的な制御を超越してしまう」としている。

※2 国立環境研究所 地球環境センター「IPCC第5次評価報告書のポイントを読む」(http://www.cger.nies.go.jp/publications/pamphlet/ar5_201501.pdf

今夏では、熱中症により小学1年生の男の子が死亡する、という痛ましい事故も起きた。愛知県豊田市のこの児童は、7月17日午前10時頃、校外学習の一環で学校から1キロほど離れた公園へ出掛け、30分ほど昆虫採集を行った。11時半に学校へ戻り、担任と話していたところ、唇が青ざめて意識を失ってしまったとのこと。その後、病院へと搬送され、熱射病による死亡が確認された。この事故の報道を受け、この校外学習を行った学校・教師には非難の声が上がった。

人間は、特に大人であれば、今まで積み上げてきた知識と経験により自分なりの「常識」を構築し、それを基準に行動するものだ。つい20年ほど前まで、7月の中旬に30℃を超える真夏日が発生することはまれであったことを鑑みると、もしかしたら、この教師は、自らの子ども時代の経験から、“夏の昼に2時間程度屋外にいても生命に危険はない”という、強固な「常識」を持っていたのかもしれない。しかしこの日、同市の11時頃の気温は33.4℃を記録しており、高温注意情報が出ていたのである。急激な気候変動は、現在の30代、40代が子どものときに体験していた常識と、現実の暑さとの間に、認識の乖離(かいり)を生じさせた可能性がある。

同様のことはさまざまな場面で起こりつつある。日本では主食であるコメを食べるため、稲(イネ)が寒冷地に適応できるよう、長い時間をかけて品種改良を行ってきた。稲は本来、亜熱帯地方の作物であり、稲作が日本に伝わった時点では、東北地方など気温の低い地域では稲を育てることができなかった。その後、祖先の血のにじむような努力によって品種改良が進み、今では日本を代表するおいしいコメ品種のほとんどが東北や北海道といった冷涼な地域でも育てられるようになった。

ところが、今後は温暖化の影響により、全国的に高温によるコメ品質の低下リスクが増すといわれており、稲の高温耐性品種への転換など適応策が検討されている※3。今まで稲が寒さに耐えられるよう懸命に品種改良を続けてきたのに、これからは「高温に強い」稲の品種を育てるということだ。長年にわたって日本の祖先が行ってきたことと逆のことをせざるを得なくなってきているのだ。

※3 農研機構「ニュース農業と環境 No.110」(https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/files/no110_4.pdf

日本の鉄道のレールは、60℃以上の高温にさらされ続けると、熱の影響により曲がってしまう可能性がある。2018年7月14日、JR西日本片町線四条畷(しじょうなわて)駅では、午後3時ごろに線路の温度が59℃を記録したため、安全運行のため一部運行を停止した(点検の結果、線路のひずみは発見されず夕方には運行を再開)。さまざまな気象条件を想定しているはずの鉄道でさえ、予想外の高温のため、安全性に支障が出てしまったということだろう。

気候変動の影響に関しては、海面上昇や洪水などの災害が取り沙汰されることが多い。しかし、気候変動によって、私たちが今まで用いてきたインフラ、風土や文化までが、今までとは大きく変わってしまうことの重要性も忘れてはならない。「夏、子どもは外で元気に遊ぶもの」という常識が通用しなくなってしまうのは、その一例にすぎない。これが気候変動の最も恐ろしいところだ。

気候変動の影響は経済界にも、企業はどうすべきか

今世紀に入り、気候変動は社会・政治的な課題だけでなく、経済における課題としても認識されはじめている。ダボス会議で有名な世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表している「グローバルリスク報告書」の2018年版によると、世界経済に与えるリスクの中で、気候変動関連リスクが最も重要性が大きかった。詳細にいうと、最もインパクトが大きいリスクは「大量破壊兵器」であり、気候変動のインパクトはそれに次ぐものであったが、発生可能性を加味すると、「異常気象」「自然災害」「気候変動緩和・適応への失敗」の3つが最上位のリスクとして評価されたのである。

参考「第13回グローバルリスク報告書 2018年版」(世界経済フォーラム)を基に筆者作成(https://www.mmc.com/content/dam/mmc-web/Global-Risk-Center/Files/Global-Risks-2018(Japanese).pdf

SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるさまざまな環境・社会的取り組みの中でも、気候変動対策は、最も重要視されるべきものだ。SDGsでは、国連加盟193カ国が2016~2030年の15年間で達成する目標として、17の目標(アジェンダ)を設定している。そのうちの13番目に「気候変動対策」が挙げられているが、気候変動はそれ以外のSDGsアジェンダにも深刻な影響を及ぼす。

気候変動によって、干ばつや洪水が発生すれば、環境や生態系が破壊され、持続可能な都市づくり(アジェンダ11)や陸上の生物多様性(アジェンダ15)の達成は難しくなるだろう。農地が破壊されたり、天候不順によって農作物に影響が出たりすれば、飢餓の撲滅(アジェンダ2)も困難になる。難民が発生すれば、貧困の終焉(アジェンダ1)や、平等な教育(アジェンダ4)、健康と福祉(アジェンダ3)も遠のく。SDGsの各目標は相互に依存しあっている部分が少なからずあり、気候変動はその中でも要となるものだ。グローバルな視点でSDGsの目標達成に取り組むのであれば、気候変動への真摯(しんし)な取り組みを行っていることはその前提条件になると言っても過言ではない。

持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs) 出典:国際連合広報センター

蛇足になるが、企業のCSR活動にSDGsの視点を盛り込む際は、こうした各アジェンダの相互作用を考慮して設計すると、企業におけるSDGsへの取り組み姿勢がより明確化され、メッセージ性の高いレポーティングが可能となる。

急拡大を続けるESG投資

さて、SDGsに関連して、世界のESG投資額がこの数年の間に急速な勢いで増え続けている。ESGとは、環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)の頭文字を取ったものだ。これらに配慮している企業を重視・選別して行う投資をESG投資と呼ぶ。

世界のESG投資額の統計を集計している国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)によると、2012年に1100兆円強だった世界のESG投資額が、2016年の調査で2500兆円を突破した※4。4年で倍以上になったということだ。2500兆円という金額は、世界の名目GDP総額(約8000兆円)の3割以上、米国の名目GDP(約2000兆円)を上回り、日本のGDP(約500兆円)の5倍にあたる。これほどの巨額が地球の持続可能性と結び付いて投資活動がなされているのである。

※4 「2016 Global Sustainable Investment Review」(http://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2017/03/GSIR_Review2016.F.pdf

日本でも、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、2017年よりESG指数(FTSE Blossom Japan IndexおよびMSCIジャパンESG セレクト・リーダーズ指数 MSCI日本株女性活躍指数)を選定し、連動した株運用を1兆円規模で開始した※5。また、2018年9月から同業種内で炭素効率性が高い企業、温室効果ガス排出に関する情報開示を行っている企業の投資ウエイト(比重)を高めた指数である「S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数(対国内株)」「S&&Pグローバル大中型株カーボンエフィシェント指数(対外国株)」を採用すると発表した※6

※5 http://www.gpif.go.jp/operation/pdf/esg_selection.pdf

※6 https://www.gpif.go.jp/investment/esg/ 記事「グローバル環境株式指数を選定しました」

GPIFは2018年度第一四半期で158兆5800億円の資産を運用しており、年金の運用機関としては世界一の投資規模を持つ。GPIFの見解としては、SDGsに賛同する企業が17の項目のうち自社にふさわしいものを事業活動として取り込むことで、企業と社会の「共通価値の創造」が生まれ、その取り組みによって企業価値が持続的に向上すれば、GPIFにとっては長期的な投資リターンの拡大につながると考えており、中長期的に投資の効果を確認しながら、将来的には他のESG指数の活用やアクティブ運用などを含めてESG投資を拡大していくとのことである。

今後は、こうした大きな資産を運用する機関投資家以外にも、一般株主、消費者、サプライヤーなど、さまざまなステークホルダーが企業の気候変動対策により一層注視することが予想される。「この企業は気候変動対策にどれだけ真摯に取り組んでいるのか?」「低炭素時代になっても順調に成長していける企業なのか?」といった質問に対し、客観的な回答を用意しておくことが必要になる。そうした際に指標となるのが、SBT(Science-based Targets)、CDP、RE100といった国際的に通用するアクションや指標である。

もちろん、企業は限られた資源を運用するなかでそれを達成しなければならない。すなわち、理想論に偏らず経済合理性に見合った形で気候変動対策を進めていかなければならない。そのためには、まず世界の気候変動対策の趨勢(すうせい)を見極めた上で中・長期的な温室効果ガス削減計画を策定し、その上でさまざまな指標・アクションに対し一つ一つ打ち手を吟味(ぎんみ)していかなければならない。その上で、自社の方向性に見合った形で排出削減・再エネ導入などのアクションを行う。忘れてならないのは、こうした取り組みを自社のステークホルダーに対し効果的に情報発信することである。

今、世界中で、企業の気候変動に対するアクションが加速している。本連載では、2015年に成立した「パリ協定」以降における企業の気候変動対策の動きについて概説し、各種イニシアチブの紹介や、それらが設立に至った背景、そして実際の企業の動きについて実例を交えて紹介していきたい。その上で、日本企業が具体的にどのようなアクションを取るべきか、どのような対外発信を行うべきなのかを考えていきたい。