再エネで地域課題を解決、
日本版シュタットベルケが動き出す

廣町公則,スマートジャパン

2018年11月02日

ドイツの公共インフラサービス事業者「シュタットベルケ」。日本においても、自治体新電力の目指すべき姿として、しばしば語られる。そもそもシュタットベルケとは、どのようなものなのか? 日本版シュタットベルケの可能性は? 日本シュタットベルケネットワーク設立1周年記念シンポジウムに、その答えを探った。

一般社団法人 日本シュタットベルケネットワーク(JSWNW)は2018年9月11日、国連大学(東京都渋谷区)において、日独シンポジウム「シュタットベルケの未来」を開催した。JSWNWの設立1周年を記念するもので、地域エネルギー事業に関わる日本とドイツのエキスパートが一堂に会した。ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省の後援のもと、ドイツ・ヴッパータール研究所およびエコス・コンサルタントとの共催による。

シンポジウム会場の様子

シュタットベルケとは、ドイツ語の「STADTWERKE」であり、「Stadt」と「Werke」からなる。英訳すれば「City Works」だ。電力をはじめとした公共インフラサービスを提供する自治体出資の地域事業者のことを指し、その数は現在、ドイツに約1400を数える。日本においては、2016年4月の電力小売全面自由化により自治体が電力小売事業に参入できるようになったのを機に、自治体新電力会社の先行モデルとして注目されはじめた。ドイツの電力自由化は、日本より20年近く先行しており、シュタットベルケには日本の自治体が学ぶべき点も多いと考えられたためだ。

こうした機運を受け、JSWNW は2017年9月、日本版のシュタットベルケを全国各地に創設し、その運営を支援することを目指して設立された。ドイツの先例に学びつつ、日本ならではの特徴も踏まえ、地域における新しいビジネスとして電力小売事業を確立し、そこから得られる収益を地域が抱えるさまざまな課題の解決に生かしていこうとするものだ。

総合インフラサービスで、大手電力に勝つ

ペーター・ヘンニッケ氏

同シンポジウムには、「シュタットベルケとは何か」「シュタットベルケによる地域活性化」「シュタットベルケの新事業モデル」などをテーマに、日独合わせて14名のスピーカーが登壇した。

基調講演では、日独エネルギー転換評議会(GJETC)創設者の1人であるペーター・ヘンニッケ氏(ヘンニッケコンサルタント代表)が、「エネルギー転換における分散型アクターの必要性」と題して、エネルギー供給の未来は「分散型・地産地消」が担っていくことを説いた。

90%以上のドイツ国民は賦課金の負担があってもエネルギー転換(化石燃料から再生可能エネルギーへの転換)に賛成していること、地域のエネルギー企業であるシュタットベルケは他のどんなタイプの企業よりも市民に信頼されていることなどが、豊富なデータをもとに示された。同時に、エネルギーの分散化を進めることで多様なビジネスが生まれ、実際に地域の発展に貢献していることが明らかにされた。

ドイツではエネルギーの分散化が着実に進んでいる(ペーター・ヘンニッケ氏講演資料より)
アンニカ・ウーレマン氏

続いて登壇したドイツ自治体企業連合会(VKU)のアンニカ・ウーレマン氏(電力市場デザイン・気象保護専門分野リーダー)は、ドイツにおけるシュタットベルケの歴史と現状についてレクチャーした。シュタットベルケの始まりは1850年から1900年代初頭にまでさかのぼり、100年を超える歴史を持つところも少なくない。一方で、地域の資源を有効活用して地域内に新規事業と雇用を生み出すべく、新しく設立されるシュタットベルケも後を絶たない。電力に関してみると、1998年に全面自由化が実施された段階では、E.ON、RWE、EnBW、Vattenfallの4大電力会社が大きなシェアを占めたが、その後、大手電力のシェアが減って、シュタットベルケのシェアが伸びるに至ったという。シュタットベルケは、自由化の波にもまれながらも、しっかりと勝ち残った地域事業者なのだ。

ドイツのシュタットベルケは、電力小売事業や再生可能エネルギー発電事業の他、地域配電網の管理運営や熱供給事業など、幅広いエネルギー事業を行っている。さらに、ごみ処理事業や上下水道、地域交通、公営プールの運営など、さまざまなインフラサービス事業を展開している。また、シュタットベルケは自治体出資の民間経営事業体として、エネルギー事業等で得た収益で赤字事業を補てんし、事業体全体としての黒字を維持しつつ、地域に密着したインフラサービスを総合的に提供している。多様なサービスで地域住民の認知度を高め、地域に貢献する企業としてのイメージアップを図ることで、電力小売事業にも好影響をもたらしているという。

シュタットベルケはエネルギー市場の変化に柔軟に対応し、地域での信頼を獲得している
(アニカ・ウーレマン氏講演資料より)

地域でお金を回し、自立的発展の契機に

ラウパッハ・スミヤ ヨーク氏

JSWNW代表理事のラウパッハ・スミヤ ヨーク氏(立命館大学経営学部教授)は、日本においては新電力事業にのみ目が行きがちだが、日本版シュタットベルケにあっても「総合インフラサービスによって地域課題の解決に貢献すること」を目指すべきだと話す。これまで日本の社会インフラは、電気・ガス等は民間、上下水道等は自治体というように民・官別の縦割りが当たり前だった。これでは個別的な効率性や、部分的な最適化しか得られない。しかし、官民連携に基づくネットワーク型の事業運営によって総合インフラサービスを提供していけば、全体最適と各種事業の相乗効果を期待することもできる。

シュタットベルケは全体最適を可能にする(ラウパッハ・スミヤ ヨーク氏講演資料より)
みやまスマートエネルギー
電力事業部執行役員 白岩紀人氏

こうした考えを受けて登壇した、みやまスマートエネルギー(福岡県みやま市)の白岩紀人氏(電力事業部執行役員)も、「電力事業は地域課題を解決するための資金づくりの手段であり、地域経済循環の起点であることが重要で、電力事業そのものが目的ではない」と述べる。

白岩氏がいう地域課題とは、「独居老人世帯の増加や過疎化への対策」「若者が定住し、子育て世代が住み続けられる街づくり」「地域産業振興、とりわけ農林業の振興」などだ。エネルギーの地産地消を軸に地域経済の自立的発展を図り、新たな地域雇用を創出し、定住基盤の確立を目指していきたいという。みやまスマートエネルギーは、みやま市が55%を出資する自治体新電力の草分け的存在であり、日本版シュタットベルケの先行事例とも目される。同社のビジョンは、日本各地の自治体に少なからず共通するものといえるだろう。

「再生可能エネルギーを基本にした地域エネルギーマネジメント」と題して講演を行ったローカルエナジー(鳥取県米子市)の森真樹氏(常務取締役)も、「エネルギー消費により、地域からお金が流出してしまう従来の仕組みを、地域でお金が回る新しい仕組みに変えていきたい」と話す。同社が調達している電源は、太陽光発電21施設、バイオマス発電2施設、小水力発電1施設、地熱発電1施設で、地産電源の割合は32.3%とのことだが、今後はさらに地域内再エネ電源の調達に努め、地域熱供給事業などにも取り組んでいきたい考えだ。

ローカルエナジー 常務取締役
森真樹氏

ローカルエナジーでは、地域エネルギー事業に新たなサービスを付加すべく、新事業モデルの検討も進めている。キーワードは、「ブロックチェーン」「AI」「VPP(バーチャルパワープラント)」。例えば、ブロックチェーン技術を活用することで、太陽光発電設備を設置した住宅のCO2削減価値を認証し、その価値をCtoCで取引することも可能になるという。「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」の買取期間が終了する卒FIT案件の出現を見据えた、これまでにないビジネスモデルだ。

環境省の森下哲氏

来賓あいさつにおいて、環境省の森下哲氏(地球環境局長)も述べている。「日本には再生可能エネルギーの大きなポテンシャルがあるが、また十分に生かされていない。エネルギーのために大変なお金が、域外に、そして海外に流れている。エネルギーの購入代金として日本から海外に流出した金額は、ピーク時には年間28兆円にも達している。人口割をすると、50万人の自治体で年間約1000億円という額に上る。こうした流出を減らすためにも、再エネを増やしていくことが重要。そのお金を地域で回すことで、地域を活性化することもできる。地域で再エネを進めていく母体として、日本版シュタットベルケが発展することを支援していきたい」。

当日は、地域エネルギー事業者、再エネ関連事業者、自治体関係者、研究者など、日本各地から約170人が参集。休憩時間にも、会場のあちこちで議論が交わされ、あつい熱気に包まれた。

ドイツのシュタットベルケは、地域配電網を自ら運営できるなど、日本とは前提からして異なる部分もある。単純にそのモデルを真似しても、成功が約束されるものではない。しかし、シュタットベルケの理念が、日本においても1つの理想となることは間違いないだろう。電力小売全面自由化から2年半、日本版シュタットベルケは、まだ産声を上げたばかりだ。再生可能エネルギーのさらなる普及発展と、地域社会の活力を取り戻すために、日本版シュタットベルケの進展に期待したい。