ブロックチェーンによる「非FIT再エネ」の環境価値取引、環境省が主導

廣町公則,スマートジャパン

2018年09月07日

ブロックチェーンにより、電力関連サービスの新しいスタイルを模索する動きが本格化している。ブロックチェーンを使えば、消費者間で再エネを取引することも可能になるという。ブロックチェーン技術は、再エネを取り巻く状況に、どんな変化をもたらすのか?

環境省は2018年度、「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業」をスタートさせた。これまで十分に評価されてこなかった自家消費される再生可能エネルギーのCO2削減価値(環境価値)を明確にし、その価値を自由に取引できるシステムを、ブロックチェーン技術を用いて構築し実証することを目指すという。

ここでいう“自家消費される再生可能エネルギー”とは、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」で売電しない電力のこと。ブロックチェーンとは、仮想通貨「ビットコイン」の中核技術として知られる分散型ネットワーク技術であり、さまざまな分野への応用が期待されているものだ。ブロックチェーンは、細かい取引の取引履歴や約定、決済結果を正確に記録することができるので、小規模な自家消費電力(=非FIT電力)の取引とも親和性が高いという。

FIT買取価格の下落が続くとともに、まもなく買取期間が終了する案件も出現する。こうした状況にあって、同事業は、太陽光や風力などで発電した再エネ電力をFITとは別の形で取引する可能性を拓くものとして注目される。なお、これは2018年度にスタートした委託事業であり、現在、公募によって選ばれた次の2グループが、それぞれのテーマで実証を進めている。

・1.デジタルグリッド株式会社(代表事業者)……採択内容「自家消費される再エネCO2削減価値の事業者向け取引・決済システム検討事業」
・2.株式会社電力シェアリング(代表事業者)……採択内容「自家消費される再エネCO2削減価値の地方部等におけるC to C取引サプライチェーン検討事業」

 2018年5月25日(第1回)と7月4日(第2回)に、同事業の課題検討協議会が都内ホールで開催され、両グループから途中経過が報告された。以下、その内容をもとに、それぞれのプロジェクトを概説する。

第2回 課題検討協議会の様子

ブロックチェーンによる取引・決済システム

デジタルグリッドらによる「取引・決済システム検討事業」は、再エネのCO2削減価値(環境価値)をリアルタイムで評価し、その価値を取引・決済するシステムを構築しようとするものだ。これが実現されれば、環境価値創出から市場取引、最終消費に至るまでの全やり取りをブロックチェーンによって正確に記録し、取引履歴はもちろん、需要家サイドの再エネ比率や温室効果ガス削減量まで分かりやすく表示することが可能となる。再エネの新たな取引市場となる環境価値取引市場を、ブロックチェーンによって生み出すことを企図している。

ここで鍵を握るのが、デジタルグリッドコントローラー(DGC)による正確な計測とブロックチェーンへの署名付き伝送の技術だ。デジタルグリッドコントローラーとは、発電システムやスマートメーターと連携し、電力の属性証明も行える新たな制御デバイスのことを指す。

実証事業としては、まず開発済みのDGCタイプBを40カ所程度に設置して運用実証を行い、商用システム化へのプロセスを明確にする。併せて、クラウド上のブロックチェーンで構成された市場に対して取引判断・入札・電力融通確認を行えるようにするなど、取引機能や通信機能などを強化したDGCタイプCを開発し、システムの高度化を図っていく。

デジタルグリッドコントローラーによる、再エネのCO2削減価値を識別・計量するシステムのイメージ
出典:デジタルグリッド
デジタルグリッド 代表取締役会長の 阿部力也氏

発表を行ったデジタルグリッドの代表取締役会長を務める阿部力也氏は、同プロジェクトの意義を次のように述べている。「ブロックチェーン技術を使った環境価値取引市場は従来なかったリアルタイム性の高い活発な市場となり得る。また、ブロックチェーンならではの分散型認証による低コストな信頼性確立手段は、市場参加者を拡大し、その市場から得られる利益は再エネの再投資に向かうと想定される。さらに、本方式は国際認証基準にも合致し、排出権の国家間輸出入にも寄与する仕組みとなる。以上のことから、本プロジェクトはCO2をはじめとした地球温暖化ガス排出削減に大いに寄与すると思われる」

なお同プロジェクトには、イオングループで再エネ事業を担うイオンディライトも参画している。同社では、参画の目的を「分散型再生可能エネルギーの効率的な利用や電力取引に関する検証を進めること」とし、「新たな技術の採用により、再生可能エネルギーに適正な価値をつけ、イオン各社・一般家庭の余剰電力、再エネ発電事業者などのクリーンエネルギーを企業や各家庭に提供したい」と話している。

消費者間で再エネ価値取引、ライブデモに成功

電力シェアリングらによる「C to C取引サプライチェーン検討事業」は、ブロックチェーンやIoT技術を活用して、再エネのCO2削減価値をC2C(消費者間)で取引するためのシステムを構築する。再生可能エネルギー利用量を個人にひも付けて把握し、データ収集するソリューションをブロックチェーン技術と連携させることで、各家庭で創出される再エネによるCO2削減価値を、低コストで容易かつ自由にC2C取引することを可能にするものだという。

「自家消費される再エネCO2削減価値の地方部等におけるCtoC取引サプライチェーン検討事業」イメージ図
出典:電力シェアリング

同プロジェクトでは、このシステムの実際の運用例として、自宅の屋根で太陽光発電を行っている個人と、所有する電動モビリティなどを再エネ電力で利用したいと志向する個人を結び付け、CO2削減価値の取引を再エネ電力の取引として具体化する仕組みを提案する。7月4日の課題検討協議会では、既に運用実証が開始されている豊島(香川県)の電動バイクステーション(瀬戸内カレン)と、東京の協議会場をインターネットで結び、この取引の様子をライブ中継した。

具体的には、鳥取県米子市のT宅と、神奈川県川崎市にあるK宅の太陽光発電の自家消費分を1分ごとに計測し、リアルタイムでサーバーに送り、そのCO2削減価値を瀬戸内カレンの電動バイクに充填(じゅうてん)する電力として遠隔移転するというもの。ここでは、ブロックチェーン上で、1kWh(キロワット時)当たりのCO2削減価値を3円で約定・取引してみせた。なお、このデモンストレーションは、同プロジェクト協力企業の一社であるソフトバンクの山口典男氏(ITサービス開発本部CPS事業推進室室長)によって行われた。電力シェアリングの代表取締役社長である酒井直樹氏によると、こうした取り組みをライブ・デモンストレーションで成功させたのは、おそらく世界初だという。

再エネのCO2削減価値を電動バイクに充填するライブ・デモンストレーションの様子
電力シェアリング 代表取締役社長の 酒井直樹氏

酒井氏は、「これまで自家消費される再エネのCO2削減価値取引事業は採算性を十分に確保することが困難だったが、本事業モデルにおいてはブロックチェーンが事業性確保に2つの面で重要な役割を果たす」と述べている。その1つが、商品価値の向上だ。ブロックチェーン技術によって、再エネのCO2削減価値に産地や生産者などの属性を付加することができるので、“顔の見える価値”を直接取引することも可能となる。2つ目は、コスト削減効果。ブロックチェーンを用いれば、取引はほぼ自動化されるので、CO2削減価値を約定・決済するコストを大幅に削減することができるという。

今後の課題としては、「包括的な取引ルールを策定し、価値取引市場を確立すること」「CO2削減価値の認証に用いる電力量計と計量法の関係を明確にすること」「データの改ざん、セキュリティ対策」などが挙げられた。

環境省は、これら2つのモデル事業を通して、CO2削減価値が適切に評価される社会への変容を促し、再エネの最大限の活用を後押しする。また、モデルの実用化により、地域の再エネ事業の自立化を加速し、全国各地域の再エネポテンシャルを最大限に引き出すことで、CO2削減量の増大につなげていく考えだ。なお、同事業は原則として3年度以内(2020年度末まで)に大規模実証まで行うこととされており、経過が良好で継続して展開することが望ましいと判断された場合は、最大5年度まで実施される。