「省エネ」工場の老朽設備に商機~制度研究し省エネ提案を

2018年05月18日

日本の製造業は、かつて省エネで世界のトップランナーと言われていた。しかし、現在は省エネの源泉だった多くの装置が老朽化したまま放置され、昔日の面影はないという。ただ、工場・事業場等に燃料転換やコージェネレーション導入など省エネ提案を行う都市ガス会社には、そこに商機がある。省エネ法の規制や、補助金、税制優遇も毎年のように見直され進化している。ニッポン製造業の現場の省エネを巡る最近の事情を見てみた。(ガスエネルギー新聞 石井 義庸)

「乾いた雑巾」は本当か

「産業界は、日本の製造業はエネルギー効率が高く、これ以上省エネを求めるのは『乾いた雑巾を絞るようなもの』とよく言う。全くそんなことはない。省エネの余地はまだまだある」

判治洋一・省エネルギーセンター上席統括役・技監・省エネ支援サービス本部長はこう指摘する。判治氏は、大手鉄鋼会社で工場のエネルギー管理を担当してきた経験を生かし、日本鉄鋼連盟で業界全体の環境対策を推進。省エネセンターに移ってからは、多様な業種の省エネの現場を調査し、助言するなど、製造現場をよく知る省エネ専門家の1人だ。同センターは、約1万1000者の企業等が提出する省エネ法定期報告書のチェックと一部企業への現地調査を行い、分析する資源エネルギー庁からの受託事業で実績がある。

判治氏が指摘する省エネ余地の一つは、1970年代のオイルショック以降に工場等で導入してきた省エネ装置等が老朽化し、省エネの機能を果たさなくなったまま放置されている点だ。そこにエネルギーのムダが隠れているという。原油をはじめとするエネルギー価格高騰という逆境を省エネで乗り越え、高い生産効率を誇ってきた日本の製造業が、昔の姿に逆戻りしているのだ。

資源エネルギー庁資料よりガスエネルギー新聞作成

○インバーター
電気関係の代表例が「インバーター」(周波数変換装置)だ。インバーターはブロワー(送風機)、ポンプ、ねじ切り機などの金属加工設備など、交流モーターを使う設備に併設(電源と設備の間に設置)することで省エネに役立つ。大規模工場から中小工場まで広く使われている。

インバーターを使うと電気の周波数を任意に変えてモーターの回転数を自由に制御できる。消費電力量が大幅に抑制できるというメリットもある。このため、省エネに配慮しながら、多品種少量生産に移行することを目的に1980年頃から多くの工場が採用した。

「多品種少量生産時代に入ると、モーターを使った機器は複雑な制御が必要になる。対応するにはインバーターが最適だった。当時は私も大手鉄鋼会社のエネルギー担当として相当な数のインバーターを導入した」(判治氏)

しかし、80年代に導入されたインバーターの多くはメンテナンスや更新がなされず、老朽化して制御ができなくなったまま、工場にまだ放置されているという。生産設備に直接電気を送り、昔のように効率の悪い方法で運用していると工場全体のエネルギー効率は悪化する。判治氏は「多くの企業は、生産設備本体には補修費を投じるが、インバーターなどの付帯装置には補修費をかけない。付帯装置が機能しなくても、生産そのものには支障がないからだ」と指摘する。
 

○蒸気管の保温材
蒸気配管の保温材でも同様の問題が起きている。

「例えば食品工場では蒸気ボイラーから加熱や殺菌など多くの工程に蒸気を送る。蒸気管に保温材を巻き、蒸気温度を200~300℃に保つが、屋外にあるため、長年使っていると水分が浸食して劣化し、そこから熱が逃げる。数年前、日本保温保冷工業協会と協力して試算すると、蒸気温が半分になるほどの熱ロスが起きていた」(判治氏)

課題は修復コストだ。「保温材を巻き直すのが基本だが、多くは架空配管で、作業に足場が必要。保温材自体よりもコストが高く付く。多くの企業が二の足を踏んでいる」という。新たな対策技術として、古い保温材の上から撥水機能のある布状の「エアロジェル断熱材」を巻く「増し保温」が出てきた。
ただ、まだ知名度が低い上、足場ほどではないが、コストもかかる。国の省エネ関連の補助制度の対象になるケースも限定的という課題がある。

足元揺らぐ省エネ大国

判治氏が「乾いた雑巾」を否定する理由はもう一つある。「日本企業は半導体など一部を除き、バブル崩壊(1990年代前半)以降、生産設備の更新に極めて慎重になった。こちらの方が根深い」と指摘する。

「日本の多くの生産設備は老朽化しエネルギー効率が悪化している。またどんな設備も効率よく運転するには運用ノウハウが必要だが、ベテラン技術者がどんどん退職し、後を継ぐ人材が育っていない」

日本の製造業はエネルギー価格高騰というピンチを省エネで乗り越え、生産効率を上げてチャンスに変えてきた。その省エネ技術は海外でも有効活用されている。しかし、国内外でさらなる省エネが求められる現在、省エネ大国の足元が揺らいでいるというのだ。

判治氏は、エネ庁が行っている省エネ法の制度、基準、運用の改正や、それらと連動した補助制度、税制優遇などをうまく活用すれば、老朽化した生産設備の効率向上や省エネ対策が割安に進められる可能性があるという。そのためには企業自らが、省エネの制度改正等を理解することも大事だが、企業に省エネを提案するエネルギー会社などが制度を十分研究し、適切な提案をすることが必要だという。

判治氏は、「多くのガス会社は、需要家の生産現場に入り込んでおり、加熱炉や工業炉など工場のエネルギー消費の現場について多くの知見がある。ぜひガスの知見をベースに、電気と熱両方の省エネの専門家として活躍してほしい」とガス会社に期待している。

 
 

4月に省エネ基準改正、現場と役員風通しよく

省エネ法は、年間エネルギー消費量1500kL(原油換算)以上の企業を対象に、「エネルギー管理者等」の選任、中長期計画の提出義務(毎年度)、エネルギー使用状況等の定期報告義務(毎年度)を求めている。対象企業には、「工場等の判断基準」に基づいて、企業にPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回し、「エネルギー消費原単位年率1%改善」目標の達成を求めている。
資源エネルギー庁は、同制度の運用や基準、関連する補助制度などを随時見直し、企業が省エネしやすい環境を整えつつある。現在は、大規模省エネ投資促進や中小企業への省エネの浸透などがテーマになっている。最近行った制度改正等は次の通りだ。

(1)省エネの現場責任者と省エネ担当役員の役割を明確化した「工場等判断基準」を改正(18年4月施行)
(2)「省エネ再エネ高度化投資促進税制」を18~19年度に適用。「事業者クラス分け制度」で直近の2年連続優良なSクラスの企業が行う「大規模省エネ投資」に対し特別償却(30%)または税額控除(7%、中小企業のみ)を適用など
(3)複数の事業者が共同して行う省エネ事業を大臣認定して推進する「省エネ法改正案」を国会提出(今国会で審議予定)

このうち(1)の工場等判断基準の今回の改正は、省エネ担当役員の「エネルギー管理統括者」、その補佐の「エネルギー管理企画推進者」、工場ごとの「エネルギー管理者」(年間エネルギー消費量3000kL以上の製造業等。それ以外は「エネルギー管理員」)の役割を明確化、連絡を密にし風通しをよくする。

工場単位で省エネについて責任を持つエネルギー管理者は省エネの状況を把握・分析、その結果を年1回以上エネルギー管理統括者に報告。管理統括者は報告を踏まえ「次期取り組み方針案」をまとめ、取締役会等に諮る。エネ庁は、この規定により現場と経営層をつなぎ、現場が提案する大規模な省エネ投資をしやすくする効果を狙う。ガス会社を含め、省エネを提案する会社は、例えばどんな報告書を書けば、経営層に響くか助言すれば、受注につながる可能性がある。省エネ制度の動向を研究した方が良さそうだ。

(ガスエネルギー新聞5月14日付)