IoTが生む新しいエネルギーサービス、成功の鍵は――大阪ガスのキーマンに聞く

松本貴志,スマートジャパン

2018年02月23日

IoT(モノのインターネット)を活用したエネルギーサービスとして、業界外からも注目されている大阪ガスの“クラウドにつながるガス機器”。サービスを開発したきっかけやその狙い、エネルギー業界のIoT活用のポイントや課題について、大阪ガスのキーマンに聞いた。

電力自由化が始まり、エネルギー各社の顧客獲得に向けた取り組みが加速している。これまでにない市場競争の中で、エネルギーをフックに、消費者にどのようなサービスや価値を提供できるかが、競争の重要なポイントになりつつある。

そして、こうしたサービスや価値の提供に向け、エネルギー企業と消費者を“つなぐ”ための鍵として、IoT(モノのインターネット)の活用に注目が集まっている。一方で、IoTを具体的にどのように活用し、どういったビジネスモデルを描けば良いのかなど、課題も残る。

国内のエネルギー各社の中で、先行してIoTの活用を進めてきた1社が大阪ガスだ。同社の“クラウドにつながるガス機器”は、一般消費者向けIoT(モノのインターネット)サービスの成功事例として、エネルギー業界外からも注目を集めている。その開発を主導した大阪ガスの八木政彦氏に、エネルギービジネスにおけるIoT活用の課題と、その解決策を聞いた。

“つながる”エネファームで顧客満足度向上

リビング事業部 商品技術開発部 スマート技術開発チーム 八木政彦氏

大阪ガスは2014年から、ガス機器とスマートフォンを接続・連携させるという、IoTの視点を取り入れたサービスを開始している。このサービスから始まる同社のIoTに関する取り組みにおいて、ビジネスモデルの構築やシステム開発について中心的な役割を担ったのが八木氏だ。

現在、同社のIoTサービスの中核を担っているのが、クラウドに接続可能な家庭用燃料電池「エネファーム」と高効率ガス給湯器「エコジョーズ」だ。2016年4月より販売を開始した新型「エネファームtype S」のリモコンにはWi-Fi接続機能が搭載されており、各家庭に設置されているルーターを経由して、Amazonが提供するクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」とエネファームを接続する仕組みを構築している。

エネファームのIoTサービス概要(クリックで拡大) 出典:大阪ガス

これにより、顧客に対して外出先からの風呂・床暖房遠隔操作サービスや、発電量と電気使用状況が確認できる省エネナビゲーションサービス、機器状態を遠隔監視し故障時には同社から顧客に通知、修理手配を行う発電見守りサービスなどを提供できるようになった。これらのサービスは、顧客満足度の向上に大きく貢献しているという。

このように、「顧客の利便性向上」に寄与する点を特徴としたエネファームのIoTサービスだが、サービスを開発するきっかけとなったのは、「メンテナンス業務の効率化」のためだったという。新型エネファームには、10年間の無償メンテナンスサービスが付帯している。そのため、今後エネファームの設置台数が増加した場合、メンテナンス業務のさらなる効率化が求められることは明らかだった。そこで八木氏を中心とするチームが、IoTを活用したサービスの開発に着手。メンテナンス業務を担う部署と協力しながら開発を進めていった。

開発したエネファーム用のIoTサービスを、メンテナンス業務の視点から見た場合、センサーを活用して現場到着前に故障内容を把握できるというメリットがある。従来のメンテナンス業務では、現場に到着してから燃料電池の情報を取得・解析して不具合の原因を特定していたため、作業負荷が高く、時間もかかっていた。こうした現場に行かなければ分からなかった情報を、遠隔から事前に把握できれば修理計画が立てやすくなり、作業効率も高まる。作業時間が短縮できれば、顧客の負担も少なくなる。

実際にこのIoTサービスを導入したところ、従来のメンテナンス業務と比較して、

・現場でのメンテナンス時間を平均56分短縮
 ・現場への再訪問率を半減

といった効果を挙げることができたという。この効果もあり、販売担当者が積極的にエネファームのIoTサービスを顧客に提案するようになった。現在では顧客宅に設置されているエネファームの8割以上がクラウドに接続されているという。

エネファームのインターネット接続数推移(クリックで拡大) 出典:大阪ガス

この接続率について、八木氏は「現在、インターネットに接続せずとも動作する家電で、ネット接続されている製品の接続率は2~3割程度だろう。(同様の製品であるエネファームで8割以上という)この接続率に達しているものは他にはないのではないか」と話す。

大阪ガスではこのエネファーム向けのIoTサービスの基盤を生かし、エコジョーズのIoT対応を2017年10月より開始。エネファームと同様の遠隔操作・機器状態見守り・見える化サービスなどに加えて、ヒートショックなどを注意喚起する入浴見守り、入浴で体脂肪率を計算できるヘルスケア機能を新たに搭載するなど、より消費者ニーズに寄り添ったサービス提供を目指した。

エコジョーズの入浴見守り、ヘルスケア機能(クリックで拡大) 出典:大阪ガス

一般消費者向けIoTサービスへ展開するときに生じる課題

八木氏は、一般消費者向けにIoTサービスを開発・展開する上で、検討すべき大きな課題として、

1.消費者にどのように自社IoTサービスを受け入れてもらうか
 2.セキュリティとプライバシー保護の確保

の2点を挙げる。

1点目の「消費者にIoTサービスを受け入れてもらう」という観点について八木氏は、「『あったらちょっと便利かも?』という機能やサービスは、多くの一般消費者には“無くてもいいもの”と思われてしまう。そのため、企業がそうしたIoTサービスを提供するために、これまで家庭内になかったセンサーやデバイスなどを新たに導入してもらうというハードルは、非常に高いと考えている」と話す。

この課題を乗り越える方法として八木氏は、「古くから家庭に入り込んでいるものをインテリジェント化する」という手法を提案する。例えば米国では、既に家庭に広く浸透している電気式サーモスタットの置き換えで、IoTサーモスタットの「Nest」や「ecobee」といった製品がヒットしている。エネファーム・エコジョーズIoTサービスもこうした例に習い、既に家庭内で市民権を得ている給湯機の台所リモコンをIoT端末とすることで、サービスを生活に自然に溶け込ませることを狙ったという。

家庭に古くからあるモノがIoT化する例(クリックで拡大) 出典:大阪ガス

2点目のセキュリティやプライバシーの観点については、さまざまなIoTサービスで課題とされる点だ。大阪ガスでは、社内外で策定されている法規や指針に沿ってシステムを設計するだけでなく、「クラウドに保管するデータの取捨選択」と「クラウドサービスが終了した場合の対応」を開発のポイントに置いたという。最終的にクラウドに保存するサービスは必要最小限とし、クラウド上のデータもオンプレミスにバックアップを取る仕様とした。さらに、外部ベンダーによるWebアプリ脆弱性診断の活用や、機器側のセキュリティ対策を何重にも施したという。

クラウドとオンプレミスの活用(クリックで拡大) 出典:大阪ガス

八木氏は、今回のIoTサービス開発において最も困難だったこととして、関係者を束ねてコンセンサスを得ることを挙げた。同社が開発したシステムの場合、ガス機器を開発するメーカー、IoTデバイスを開発するメーカー、クラウドサービスを開発するシステムインテグレーターといった社外関係各社に加えて、社内のメンテナンス担当部署や営業など、数多くの関係者との調整が必要だった。開発途中で問題が発生した場合は、関係者で膝を突き合わせて議論を交わすというボトムアップ型のコミュニケーションで解決を図ったという。

IoTサービス開発で最も困難だったこと(クリックで拡大) 出典:大阪ガス

また八木氏は、「IoTサービスの普及において、ガスや電気という生活インフラを扱うエネルギー業は、“そもそも既に家庭に入り込めていること”が強み。既にあるエネルギー機器をインテリジェント化すれば、さまざまなことが可能になる」と話す。その一方で「IoTはあくまで手段であり、その前提には現場で解決したい課題や新規サービスの創出がある。IoTで技術的に実現可能なサービスレベルと、現場や顧客が求めるサービスレベルに不整合を出さないよう、IoTサービス開発は関係者が一気通貫で目的を共有して取り組むことが重要」と語った。