世界トップを目指す日本の水素戦略、再エネ水素は2032年に商用化

陰山遼将,スマートジャパン

2018年02月16日

政府は日本での水素社会の実現に向けた行動目標を示す、「水素基本戦略」を固めた。コストと低減と水素需要の拡大に向け、さまざまな実現目標が盛り込まれた。

エネルギー供給の多くを海外に依存する日本のエネルギーセキュリティ向上、さらには地球温暖化防止に向けた“脱炭素化”の切り札となる新しいエネルギーとして期待されている水素。政府は2020年の東京五輪を“水素社会の見本市”とすべく、これまでも水素エネルギーの普及を強く後押ししてきた。一方で、実際に水素の利用を広げるためには、調達方法、コスト、そもそもの需要拡大など、多くの面で課題が残されているのも事実だ。

政府は2017年12月26日に「第2回再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」を開き、「世界に先駆けて水素社会を実現する」という目標に向けた戦略的ロードマップ「水素基本戦略」を策定した。2050年に目指す水素社会のビジョンの実現に向けた、2030年までの具体的な行動計画を盛り込んでいる。その中で、水素のコストを2050年にガソリンや液化天然ガス(LNG)と同等程度まで引き下げるという意欲的な目標を掲げた。

「第2回再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」の様子 出典:首相官邸

水素の価格を現状の5分の1に

水素基本戦略は大きく分けて「水素の調達・供給コストの低減」と「水素の利用方法の拡大」が核となっている。

1つ目の調達・供給コストの低減は、水素社会の実現には不可欠な水素コストの低減に向けた戦略だ。具体的には、海外の安価な未利用エネルギーと、再生可能エネルギーを利用して、水素を大量調達できるサプライチェーンの構築を目指す。海外から液化水素を調達する、国際的な水素サプライチェーンの開発にも取り組む。水素の大量調達・供給を実現し、コスト低減を推し進める考えだ。

政府は現時点における国内の水素供給量は年間0.02万トン、水素ステーションなどで供給されている価格は100円/Nm3(ノルマルリューベ)と試算している。2030年には商用の水素サプライチェーンを構築して供給量を年間30万トンまで拡大し、価格は現状の約3分の1となる30円/Nm3まで引き下げる。以降は国際サプライチェーンを拡大して調達量を増やし、2050年には供給量1000万トン、価格は20円/Nm3を目指す。

「水素基本戦略」の概要 出典:経済産業省

現状、国内で供給されている水素の大半は、工場の副生水素や天然ガスを改質して製造されたものだ。水素基本戦略ではこの一部を、再生可能エネルギーの電力で製造した水素に置き換えていく方針を掲げる。これは再生可能エネルギーの利用拡大に求められる、余剰電力の貯蔵にも役立つ。しかし商用化を図るためには、水を電気分解して水素を作る「Power to Gas(P2G)」技術のコスト低減が課題となる。

そこで、P2G技術の中核である水電電解システムについて、世界トップレベルのコスト競争力を実現すべく、2020年までに5万円/kW(キロワット)を達成できる技術を確立するという目標も盛り込んだ。そして、2032年には再生可能エネルギーの電力で製造した水素の商用化を目指す方針だ。2016年に改訂した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」で掲げていた2040年代の商用化目標を前倒したかたちになる。将来的には国内の再生可能エネルギーの導入状況に合わせて、輸入水素と同等のコスト実現を目指す。

一方、海外から輸入する水素については、褐炭などの安価な未利用エネルギーを利用して製造する方針だ。その際に求められるのが、製造時に排出するCO2を分離・回収する技術の確立だ。未利用エネルギーによる水素製造も、再生可能エネルギー由来の水素と同様に、CO2フリーを目指す。同時に有機ハイドライドやアンモニアなど、水素の貯蔵・輸送の低コスト化に寄与するエネルギーキャリアの活用技術の確立にも注力していく。さらに、欧米では既に実用化されている、水素を輸送するパイプラインの構築についても、技術的課題の抽出や、規制の見直しも実施する方針だ。

2030年にFCVを80万台に

トヨタの燃料電池車「MIRAI」 出典:トヨタ自動車

水素の利用を社会に根付かせるためには、水素の利用方法の裾野を広げ、需要を増やしていくことも欠かせない。水素の利用先としてまず想像できるのは、燃料電池車(FCV)だろう。最近では乗用車だけでなく、FCバスやFCフォークリフトなどの導入も広がっている。

水素基本戦略では現在2000台程度が普及しているFCVを、2020年までに4万台、2030年までに80万台普及させるという目標を掲げた。FCバスとフォークリフトはそれぞれ、2020年に100台と500台、2030年には1200台と1万台を普及させる。

こうした水素で駆動するモビリティーの普及には、燃料の供給インフラである水素ステーションの普及も同時平行で進める必要がある。現在、国内の水素ステーションは100カ所程度だが、2020年には160カ所、2030年には900カ所にまで増やす方針だ。水素ステーションの大きな課題である設置コストは2020年をめどに半額まで削減し、2020年代後半には自立運営を可能にする計画だ。

水素需要拡大の切り札は、発電利用にあり

水素の需要を大きく増加させる用途として期待されているのが、発電分野での利用だ。水素基本戦略の中では、現状、開発段階にある水素発電の技術を、2030年までに商用段階へ引き上げ、発電コスト17円/kWh(キロワット時)の実現を目指方針を掲げた。将来的には環境価値も含め、既存のLNG火力発電と同等の、13〜14円/kWh前後の発電コストを目指していく。

水素発電の導入にあたっては、電力システム改革が進展する中で、経済性の確立に向けた制度設計などの検討も同時に進めていく。「CO2を排出しないという水素発電の持つ環境価値を顕在化し、評価・認定、取引可能にしていくことが重要」としており、省エネ法における

水素利用の位置づけを明確化する、あるいはエネルギー供給構造高度化法において、水素発電設備を非化石電源として位置付けることも検討していく。

2030年以降、調達量が増えることが見込まれるCO2フリーな水素は、こうした発電分野の他、工場など自動車以外の産業分野での活用も模索する。

この他、家庭での水素利用の拡大に向けて、家庭用燃料電池「エネファーム」などの普及拡大にも引き続き注力していく。現在エネファームの普及台数は22万台程度だが、これを2030年には530万台に拡大させる。そのためにエネファームの価格を、2020年ごろまでに固体高分子形燃料電池(PEFC)で80万円、固体酸化物形燃料電池(SOFC)で100万円まで引き下げることを目標とした。