都市ガス小売全面自由化の現状
スタートから半年で見えてきた自由化の成果

2017年12月15日

半年で約43万件がガス会社を切り替え

今年(2017年)4月1日に都市ガスの一般家庭への小売全面自由化がスタートしてから、約8ヵ月が経過した。その1年前の2016年4月にスタートした電力の小売自由化に引き続き、消費者は都市ガスにおいても、従来の都市ガス会社に新規参入者も加えた複数の事業者のなかから、ガス会社を選ぶことができるようになったわけだ。

自由化スタートから半年の9月30日時点のデータによれば、従来の都市ガス会社から新規参入会社に切り替えたスイッチ件数は全国で約43万件、スイッチング率(割合)でいえば2.2%だった。つまり、100世帯のうち2世帯がガス会社を切り替えたことになる。エリア別では、近畿がスイッチ件数約23万件でもっとも多く全体の55%を占め、スイッチング率も5.1%と高い数字を示している。件数では近畿に次いで、関東の約8.6万件、中部・北陸の約6.9万件、九州・沖縄の約4万件となっている。

一般社団法人日本ガス協会 企画部長 狭間 一郎氏

この数字をどうみればいいのか。また自由化による成果はどれほど出ているのだろうか。自由化の現状や今後について、一般社団法人日本ガス協会の企画部長、狭間一郎氏に話を聞いた。

「昨年の電力自由化ではスタートから半年間で、全国のスイッチング率は3.0%でした。都市ガスの2.2%はそれよりは若干低いものの、エリア別で見れば、近畿、中部・北陸、九州・沖縄でのスイッチング率は、電力を大きく上回っています。近畿のガスのスイッチング率にいたっては、電力でもっとも高かった関東のスイッチング率(4.7%)よりも高くなっています。実質的にほぼ同様と言ってよい数字ではないでしょうか。」(狭間氏、以下同)

近畿を中心に、都市ガス市場で高いスイッチング率を示した理由として、経営規模が大きい地元電力会社が新規参入し、積極的な営業活動を展開したこと大きかったのではないかと狭間氏は言う。また、関東については、東京電力の参入が今年7月からと遅かったため、今後スイッチング率の上昇が見込まれている。一方、北海道、東北、中国・四国のエリアでは、新規参入事業者が手を上げていないため、従来と同様、他エネルギーと競争している状況にある。

自由化における事業者の動きはどうか。現在、都市ガス小売事業者に登録しているのは、50社で、そのうち自由化を機に新たに一般家庭への供給を予定しているのが14社。自由化で約260社が新たに販売を開始した電力の場合と比べると、かなり少ない印象を受ける。

「これは、電力とガスでは、エネルギーとしての必需性や普及率、市場規模などの事業特性が大きく異なるため、自由化による競争の状況にも違いが生じているからです」

必需性とは、電力が必要不可欠なエネルギーなのに対し、都市ガスは他エネルギーに代替が可能であることをいう。電気と異なり、都市ガス自由化では、もともと存在していた他エネルギーとの競争に、都市ガス同士の競争も上乗せされることになった。普及率で見ても、電気は100%だが、都市ガスの場合は、ガスを送る導管網の範囲に限りがあり、かつ他エネルギーとの競合の結果、平均50%程度でしかない。さらに消費者の数は電力の5900万件に比べ、都市ガスは2900万件と半数以下だという。

「電気に比べ新規参入が少ないのは、こうした違いに加え、マーケットの規模が電力に比べて小さいことが、大きく影響している可能性があります」

自由化のメリットと料金やサービスの多様化

「自由化のメリットには、安定供給の実現、需要家(消費者)の選択肢の拡大、料金の抑制、サービスの多様化の4つが挙げられます。これらについて現時点では、一定の成果が出ていると考えられます」

消費者の選択肢の拡大やサービスの多様化という点では、全国の都市ガスの消費者のうち、複数の事業者のサービスのなかから選べるようになった割合は、実に全体の77%におよんでいる。また、これに加えて、既存の都市ガス事業者の新サービスなども加えれば91%となり、ほとんどの消費者が料金やサービスを選択できるようになっているという。

clickで拡大 資源エネルギー庁『ガスの小売り全面自由化の進捗状況』を参照に、編集部作成

各社がそれぞれ展開している具体的なサービスには、たとえば電気や通信サービスとのセット割引や、ポイントサービス、都市ガスの利用状況を離れた家族に通知する見守りサービス、都市ガスに限らず水回りのトラブルなどにも対応する駆けつけサービスなどが挙げられる。また、料金の抑制についても、自由化以降は不当な値上げを行っている事業者はおらず、料金を数%程度値下げしている事業者も見られており、一定の成果が出ていると考えていいだろう。

「新規参入事業者がいる関東や近畿などでは、各社が独自に料金メニューやサービスを打ち出しており、電力の自由化並みの活発な競争状況になっています。その一方で、新規参入事業者がいない北海道や東北などのエリアでも、既存の都市ガス事業者が新料金やサービスメニューを出す動きが拡大しています」

その背景には、新規参入事業者が現れたときの競争に備えるという危機感以上に、すでに存在している他エネルギー、特にオール電化への対抗策なのだと狭間氏は指摘する。

「そこで自由化をきっかけに、あらためて顧客との絆を再構築したいというのが大きな動機でしょう。とはいえ、新規参入事業者がいないエリアでも、需要家は多彩なサービスを選べるようになったわけで、想定以上の自由化の成果といってもいいのではないでしょうか」

安心・安全なガス供給を前提に顧客のニーズをつかむ

まだスタートしたばかりといっていい都市ガスの自由化だが、今後はどうなっていくのだろうか。

「一般家庭のスイッチング件数は、まだ伸びていくと思いますが、そのピークがどれくらいになるのかなど、我々にもわからない部分も多くあります。いずれにしても、需要家の皆さんには、都市ガス事業者や料金プランを選ぶ際は、内容をよく吟味して選んでいただきたいですね」

一方、新規参入事業者については、「少しずつ増える可能性はありますが、前述したようにマーケットの規模をはじめとして事業特性が電力とは異なるので、電力自由化のような展開にはならないでしょう」と予測する。

今後、自由化が成功するためには課題もある。まず大前提となるのが、安全性だ。都市ガス事業の経験が少ない新規参入事業者であっても、万一、事故を起こせば、自由化全体が失敗と言われかねない。これは、顧客への都市ガスの安定供給はもとより、都市ガス事業への信頼を失うことにもなる。だからこそ、都市ガス事業者の安全水準を低下させてはならないと狭間氏は言う。

「今回の自由化で、都市ガス事業のさまざまな規制が緩和されたわけですが、プレイヤーである我々都市ガス事業者自身も、自由化の成果をしっかりと挙げていくことが求められていると思います」

ガス自由化で利用者に良い影響が及ぶことを期待していると語る狭間氏

都市ガス業界では、これまでのような地域独占の時代は終了し、多くのプレイヤーが競争し、選ばれていくという淘汰の時代に突入した。

「長年、都市ガス供給を担ってきた既存の都市ガス会社にとって、お客さまに選択されることが以前よりも大きな意味をもってくるはずです。厳しい時代ですが、それは成長のチャンスでもあります。それを自覚して、強みを見直し、よりお客さまに受け入れられるメニューやサービスを打ち出せば、自由化以前よりもしっかりとお客さまとの絆を強固なものとすることができるのではないでしょうか。

これからは、ただ漫然と都市ガスを供給しているだけでは存在価値はないでしょう。もちろん安全・安心が第一ですが、お客さまのニーズをとらえた的確な提案ができる事業者が生き残るのだと思います」