炭火に匹敵する高温調理を実現した
高火力ガス式焼物器の実力

2017年10月20日

燻煙で香りづけできる日本初の焼物器

高火力ガス式焼物器。幅のサイズが異なる2商品で展開する

一般の消費者はあまり目にすることのない飲食店などの業務用厨房機器。ガスコンロに揚げ物用のフライヤー、冷蔵庫に食器洗浄機などなど、その種類は業態によっても多彩だが、そんな厨房機器の世界も日々、進化を遂げている。

そんななか、注目を集めている機器がある。業務用厨房機器メーカーのタニコー株式会社、大阪ガス株式会社、東邦ガス株式会社の3社が共同開発した高火力ガス式焼物器(やきものき)がそれだ。

焼物器とは、おもに日本料理店などで使われる魚や肉を焼く機器で、たとえば、うなぎや焼き鳥を焼く機器だと思えばわかりやすいだろう。そういうと、多くの人は炭火を連想するかもしれないが、実はそこが、このガス式焼物器が注目されている理由なのだ。つまり、これまで難しかった炭火と同じ高火力での調理を、ガスで可能にしたからである。

3社の開発担当者たちが集まっているというので向かった先は、タニコーの福島小高工場。開発製造の拠点だ。

製品を囲んで右から、タニコー・商品開発部の菊田浩章氏、大阪ガス・エネルギー事業部の西教安氏、東邦ガス・技術研究所の羽木敏氏

「従来のガス式焼物器の熱板温度は約600度から700度でしたが、今回開発した焼物器は、ブラスト燃焼バーナを搭載することで、炭火に匹敵する熱板温度800度以上という、国内最高水準の高火力を実現しました。さらに、油や肉汁が加熱されることで発生する煤(すす)の少ない煙によって、食材に香りをつける日本初の燻煙発生機能もオプションで備えているんですよ」

写真の中央に見える穴が今回採用したブラスト熱焼バーナの炎口部。この上に、半円状に反った熱板を載せて加熱し、その輻射熱で食材を焼く。熱板のそばに、燻煙棒を設置できるようになっている

そう話すのは、東邦ガス・技術研究所の羽木敏氏。

羽木氏のいうブラスト燃焼バーナとは、ファンで強制的に空気を送りこむことで、高火力で均一に加熱できるガスバーナの一種。その炎によって熱板(金属板)を高温に熱し、輻射熱で食材を焼き上げるのだ。バーナ(熱板)の本数を増やしたり、1本1本の間隔を狭くするなどして、焼きムラを抑える工夫もされているのだという。

 

モニター試験だけでなく、熱板の材質選定にも尽力した東邦ガス・技術研究所の羽木敏氏

では、燻煙発生機能とは、どんな機能なのか。

この焼物器は、高火力はもちろん、「煙が出ない」というメリットも備えている。「もともと京都の料亭のリクエストで、煙の出ない焼物器の開発から始まったんですよ」。そう振り返りながら、今度は大阪ガス・エネルギー事業部の西教安氏が、燻煙発生機能について説明してくれた。

「和食には、食材の肉汁や調味料が炭や熱板に滴り落ちて発生する煙によって、食材に風味づけをする調理がありますが、白身魚など、煙を好まない食材もあるのです。

そこで、まず煙の出ない焼物器の開発を目指しました。

熱板の温度が高温になると、そこに落ちた肉汁などが弾かれて、煙を出すことなくすべり落ちる現象が起こります。つまり、この現象を利用して煙の発生を抑えたわけです。しかし、食材によって、また調理する料理人の好みによって、煙があったほうがいい場合もあります。そこで食材からの肉汁や調味料を加熱することで、煤が少なく香り成分の多い燻煙を発生させる機能をつけ加えたんです」

「予想を上回る高評価が得られた」と、大阪ガス・エネルギー事業部の西教安氏

熱板の近くに金属棒を配置し、輻射熱で適温に熱せられた金属棒に肉汁や調味料などの雫が落ちることで、燻煙を発生させるという仕組みだ。

さらに、高温の熱板には肉汁などがこびりつかないため、メンテナンス性や耐久性の高さもあわせ持つ。だから、あえて火力調節ができないようにしているという。ユーザーが温度を低く調節してしまうと、こびりついてしまうからだ。そこで、焼き面の高さ(熱板と食材の距離)を調節することで、火力を調整できる機能(道具)も備え、使い勝手を向上させている。

こうしたさまざまな工夫によって、炭火並みの高火力で調理でき、燻煙による風味付けも可能で、さらに、メンテナンス性も高いという利点も兼ね備えた、ガス式焼物器が誕生したのである。

料理人の声やモニター試験で改良

共同開発がスタートしたのは約2年前。

大阪ガスが煙の出ない焼物器を開発していたのと同じ頃、東邦ガスでも、高火力の焼物器開発に取り組んでいた。東邦ガスのある名古屋は、うなぎ料理の「ひつまぶし」が有名だが、高火力で調理したいうなぎ料理店から、これまで使ってきた焼物器に代わる製品を求められていたからだ。同じ焼物器開発に取り組む者同士、お互いの状況を知った両者は自然と手を結ぶことになった。

だが、実際に製品化を行う協力メーカー探しは難航した。これまでに例のない開発は、コストや技術面でハードルが高く、申し出を断るメーカーが相次いだのだ。そんななか、「技術においても市場においても挑戦する価値がある」と受け入れたのが、タニコーだった。

ここに3社の共同開発がスタートしたわけだが、もちろん最初からうまくいったわけではない。「我々も初めての取り組みでしたし、まずはいかに800度以上という高温にするかが課題でしたね」と、タニコー・商品開発部の菊田浩章氏は話す。

タニコー・商品開発部の菊田浩章氏。ひとつひとつ課題を解決しながら製品化を実現した

「そのために、熱板の材質選びから形状、炎が出るバーナの穴の大きさや間隔など、さまざまな角度から開発をしていきましたが、たとえば、バーナに風を送るファンの小型化には苦労しました。ブラストバーナはもともと大型の厨房機器に使うもので、小型の焼物器に取り付けるには、従来の弊社のファンでは大きすぎたんです。そこで、何度も改良を重ねながら、小さくしていきましたね」

これと並行して、大阪ガスと東邦ガスでは、ユーザーとつながるエネルギー会社の強みを活かして、料理店でのモニター試験などの役割を担い、その結果を3社で共有化し、タニコーでの改良へと役立てていった。

 

名古屋のうなぎ料理店が、高火力ガス式焼物器のモニター試験に協力した

「大阪ガスでは、京都の料亭をはじめ、『2017食博覧会・大阪』でも複数の料理人に試してもらい、感想や意見を聞きました。燻煙発生機能は、まさにそんな開発途上で料理人の声から生まれた機能なんですよ。燻煙も欲しいという声が多かったんです。だから燻煙発生機能の燻煙棒は、つけたり、外したり、棒の数を変えたり、使う人が好みや食材によって使い分けられるようにしているのです」(西氏)

東邦ガスでは、うなぎ料理店でおよそ3ヵ月にわたってモニター試験を実施。料理人の評価や、実際の現場で使ってきた改良点を開発に反映していった。「また、熱板の材質についても、弊社の実験室で耐熱性の実験を行ったり、モニター先で2週間ごとに数種類の材質を変えて試してもらいながら、最善の材質を絞り込んでいきました」(羽木氏)。

「遠火の強火」をガスで実現

改良を重ねたファン。これにより焼物機の小型化が実現した

3社それぞれの取り組みの成果として、試行錯誤の末に開発に成功した高火力ガス式焼物器。「いい製品に仕上がったと思っています。開発のやりがいがありました」と、タニコーの菊田氏は自信を隠さない。

「我々は今後販売を行っていきますが、さまざまな課題に対処しながら、間違いのない製品をお届けしていきたいですね」(菊田氏)

炭火並みの高火力に加えて、燻煙発生機能で調理の幅が広がったわけだが、ここで忘れてはならないのが、それがガス式だということである。高火力と燻煙が必要なら、炭火を使えばいい話だ。そこに、今回の開発成功の大きな意義があるといえるだろう。

ひと言でいえば、手軽さだ。炭火の場合は準備に時間がかかり、消し炭や灰の始末から清掃まで火床の管理も大変だが、このガス式焼物器なら、2〜3分で立ち上がり、すぐに調理することができる。片付けの手間もかからない。それでいて、炭火と変わらない火力をもっているというのだから、ユーザーから注目されないほうがおかしい。

「東邦ガスでは、モニター試験中のうなぎ料理店で非常に高い評価をいただき、モニター終了後に購入いただくことを検討していただいています」と羽木氏。「これまでガス会社として培ってきたノウハウやお客さまとの関係構築が、モニター試験などでも役に立ったと思っていますね。これからは、うなぎ料理店だけでなく、もっとさまざまな業態のお店にアピールしていきたいですね」と、意気込む。

大阪ガスの西氏も、「日本料理店だけでなく、今後は焼き鳥店に広げたい」という。焼き鳥店のような比較的小さな店舗への普及を考えていけば、さらなるコンパクト化も今後求められる課題だ。

「開発にあたっては、料理人の要望をいかに反映するかに苦心しました。でも、そのかいがあって、ある料理人からは『焼き調理を楽しめる機器』だという評価をいただきました。気軽に使えて、高火力で思い通りの調理ができるから、楽しいと」(西氏)

和食の世界には、「強火の遠火」という言葉がある。炭火料理などで、強い火力で食材を火から遠ざけて焼く調理法で、食材の旨みを逃すことなく、中までしっかり火を通すことができる。そんな、今まで火力が低くてガスではできなかった料理の技や工夫が、気軽に楽しめるようになった————そう料理人たちが実感しているのだろう。

「調理が楽しい」。開発に携わった3社のメンバーにとって、それは何よりもうれしい褒め言葉に違いない。

高火力ガス式焼物器が開発された、福島県南相馬市にあるタニコーの福島小高工場