原子力事業の弊害さらに増大、政府と東京電力の責任を国民に転嫁へ

石田雅也,スマートジャパン

2017年01月31日

政府は東京電力の福島第一原子力発電所の事故に関連する費用が従来の想定から2倍に拡大して22兆円に達する見通しを明らかにした。東京電力が経営改革を進めても費用の全額を負担することはむずかしく、不足分は新電力の利用者を含む全需要家から回収する方針だ。

12月9日に開催した「東京電力改革・1F問題委員会」で、福島第一原子力発電所(略称:1F)の事故に関連する費用の見通しが新たに示された。廃炉・賠償・除染にかかる費用は当初7兆円と見積もっていたが、2013年12月には11兆円に増え、さらに3年が経過して22兆円へ倍増してしまった。東京電力の経常利益(2015年度:3259億円)の67倍にのぼる巨額だ。

内訳は廃炉費用が2兆円から8兆円へ、賠償費用が5兆円から8兆円へ、除染費用が4兆円から6兆円へ、それぞれ大幅に増える(図1)。総額22兆円のうち、東京電力が7割に相当する16兆円を負担する一方、原子力発電所を保有する他の電力会社が4兆円、国が2兆円を負担する案を政府は提示した。

図1 福島第一原子力発電所の事故に関連する費用(注釈は省略)。出典:経済産業省

合わせて22兆円になるが、賠償費用は新電力にも0.24兆円を負担させる方針だ。この点に関して、委員会が策定した骨子案では次のように説明している。

●賠償に係る資金は、事故事業者と原子力事業者の負担金から充当されるという原則は変えない。ただし、賠償制度は2011年に機構法(原子力損害賠償・廃炉等支援機構法)で追加措置。福島事故への対応に関しては準備不足。この制度不備を反省しつつ、電力の全需要家から公平回収する仕組みを検討する。

いったい誰が反省すべきかと言えば、原子力事業を開始して以来の政府であり、事故のリスクを甘く見ていた電力会社である。事故に伴う巨額の費用の負担を国民に求めるのであれば、現政府の責任者と電力会社の責任者が国民に対して謝罪すべきであることは論を待たない。そのうえで国民の理解を求める必要がある。

国民の負担増加は福島第一原子力発電所の事故費用にとどまらない。原子力発電所の廃炉費用に関しては、電力会社(原子力事業者)が電気料金で回収する制度になっている(図2)。従来は運転開始から60年以上で廃炉する規定を設けていたが、福島の事故後に原則40年以上に短縮した。そのために発電設備の資産償却と廃炉に必要な解体引当金が不足する。これも電気料金で回収することになる。

図2 原子力発電所の廃炉費用の負担制度。出典:経済産業省
 

こうした早期の廃炉を政府は「例外」と呼び、電力会社だけではなく新電力からも託送料金(送配電ネットワークの使用料)に上乗せして徴収することを検討中だ。新電力を含むすべての需要家が各地域の原子力発電所の廃炉費用を負担しなくてはならない。

柏崎刈羽原子力の再稼働も見込む

委員会が策定した原案の中には、東京電力の経営改革を通じた利益改善策も盛り込まれている(図3)。年間0.4兆円の利益水準を早期に0.5兆円まで引き上げることが目標で、そのために送配電コストの削減を実行する。現在の1kWh(キロワット時)あたり4.5円から欧米並みの4.0円まで低減させる。

図3 東京電力の経営改革による利益改善案。出典:経済産業省
 

続いて第2段階として柏崎刈羽原子力発電所の再稼働で1基あたり年間に0.05兆円を削減する。さらに第3段階で送配電事業と原子力事業を他の電力会社と共同の事業体に移行して、株式の売却で国に4兆円の利益をもたらす目論見だ。ただし第2・第3段階の施策は立地自治体の反発や他の電力会社の意向もあり、実現できる可能性は決して高くない。

第1段階で実施する送配電コストの低減をはじめ、経営改革で生み出す利益は第三者が管理できるように積立金制度を創設する方針だ。東京電力グループの通常の利益から分離して、第三者が管理しながら廃炉費用として取り崩していく(図4)。廃炉処理を国が責任をもって実施するための対策である。

図4 第三者機関による資金管理スキーム。出典:経済産業省
 

東京電力は国と電力会社が事故後に設立した「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」から現在までに9兆円を超える交付金を受けて、廃炉・賠償・除染費用にあてている。その代わりに株式の50%超を同機構が保有する国有化の状態にある。この状態から早期に自立するために、福島に関連する事業(福島事業)と他の事業(経済事業)を分けたうえで、経済事業から自立を目指す(図5)。

図5 東京電力に対する国の関与と自立のシナリオ。出典:経済産業省

ただし経済事業の自立には、他の電力会社と共同の事業体を設立して調達・開発の効率化を進めることが前提だ。政府は2019年に進捗状況を評価して脱・国有化を判断する。東京電力の脱・国有化は2020年4月に実施する発送電分離(送配電部門の中立化)の後になる。