気候変動対策の“主役“は、
なぜ国から産業界へシフトしているのか

山口岳志 日立コンサルティング エネルギーコンサルティング本部 マネージャー,スマートジャパン

2018年12月14日

京都議定書から20年、気候変動対策の主役は国から産業界へ

京都議定書からパリ協定を経て、現在に至る約20年の歴史を俯瞰(ふかん)してみよう。京都議定書の締結がなされていた頃(1997年、COP3)、気候変動対策の主役は「国」であった。各国がそれぞれのGHG排出量をどう削減し、その結果地球全体の温暖化をどう食い止めるか、という課題は、各国がどのように責任を負うかを国家間の対話によって取り決める外交的マターとして認識されていた。京都議定書が実際に発効されたのは締結から8年後の2005年だが(批准から一転して受け入れを拒否した米国、受け入れ判断を遅らせたロシアなどの動きが発効の遅れの原因となった)、米国、中国という二大排出国家が参加せず、また発展途上国に対しても義務を負わせるものではなかったため、「一部の国に対し不利な内容ではないか」と不満が噴出した。

その後「カンクン合意」(2010年、COP16)を経て各国の削減策についての報告と検証のルール化が一層進み、また、インド、ブラジルなどの途上国でも排出削減への歩み寄りがみられ、世界が協調して気候変動問題に立ち向かうという基本理念が確認された。次いで2011年の「COP17」(南アフリカ・ダーバン)では、全ての主要排出国を対象とする新たな法的枠組みを2020年から実施に移すための工程表である「ダーバン・プラットホーム」が採択され、これがパリ協定締結への重要な布石となった。

そしてパリ協定(2015年、COP21)では、京都議定書以来18年ぶりとなる気候変動に関する国際的枠組みとして、途上国を含めた参加196カ国全てが世界の平均気温上昇を産業革命時から「2℃未満」に抑えること(加えて、平均気温上昇「1.5℃未満」をめざすこと)に合意したのである。合意に至るまではさまざまな国の思惑が絡み合い、交渉決裂の危機が何度もあった(実際、ダーバン会議では議論が平行線をたどり、会期が1日延長された)。過去20年近くにわたる参加国・関係者の綿密な調整と努力の果てに、国家間のエゴイズムを超克し、やっとこぎ着けた国際的合意が、パリ協定なのである。

パリ協定前後の気候変動枠組条約締約国会議(COP)。日立コンサルティング作成。COP21以前はパリ協定に至る主要な会議のみ抜粋

しかしながら翌年の2016年、米国で新たに誕生したトランプ政権はかねて公言していたとおり、パリ協定からの離脱方針を明らかにした。パリ協定を苦労して成立させた関係者たち(多数の米国人も含まれる)にしてみれば、トランプ大統領の決断はこの20年にわたる世界の努力を否定するものに映ったに違いない。

だがこれを受け、米国内の数百の自治体、数千の企業と投資家、大学が参加し、「われわれはパリ協定に残る」という意味の「We are still in」というネットワークが誕生した。連邦政府がどのような政策を取ろうと、地域、各州、ビジネス、大学などはGHG削減に対する第一義的な責任を負っているとし、米国は引き続き排出削減のグローバルリーダーにとどまると宣言したのである。日本でも同様に、今年(2018年)に入り企業や自治体、NPOが気候変動抑止のためのネットワークである「気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative:JCI)」を発足させた。

以上をまとめると、世界の気候変動対策は「国」が主人公だった時代から自治体、産業界、学界、投資家、NPOなども含めた多様なプレイヤーが参加する取り組みへと変化してきている、といえる。実際に主なGHG排出源は産業活動によるものだから、この流れは自然なもののように思われるかもしれない。しかし、実際に気候変動を食い止めようという未来に向けた大目標のために、何千、何万という人々が長い時間と膨大な努力によって、国のエゴを乗り越えてきたからこそパリ協定が成立したという背景も忘れるべきではない。パリ協定に至る過程で、国に任せきりにしていたのでは、いつまでたっても気候変動対策が進まない、だからこそ産業界も率先して気候変動対策に対するイニシアチブ(主導権)を持つべきだ、という考え方が生まれてきた。

そして、企業がイニシアチブを持って先進的に気候変動対策を進める動きの中で、実際にさまざまなグローバル企業が参加するSBT、RE100が生まれているのである。トランプ政権によるパリ協定離脱は、後から振り返ってみれば、国が主導していた気候変動の取り組みを産業界がリードする流れが生まれた、きっかけの一つとして位置付けられるかもしれない。

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